胎児の染色体異常が判明し、中絶を検討されている方へ

生まれてくる赤ちゃんが健康であることは全てのご両親が願うところです。近年、超音波検査法、出生前診断検査法の精度がよくなったこと、女性の高齢妊娠出産が増えたことで、NIPT検査や、染色体検査の関心が高まっています。出生前検査は高齢出産の場合でも、必ずしも受ける必要があるわけではありません。そのためスクリーニング検査や確定診断検査を受けるかどうかをご夫婦やパートナーとの間でよく話し合い、医師やカウンセラーから十分な遺伝カウンセリングの説明を受けてから検査について検討する必要があります。また、新型出生前診断や羊水検査の確定診断で陽性が出た場合は、ご本人お一人、ご夫婦だけで悩むのではなく、医療機関の専門カウンセラーの方に相談することがとても大切な事です。

目次

DNA、遺伝子、染色体、とは?

染色体異常、遺伝子異常、について考える時は、DNA、遺伝子、染色体、の違いと関係を十分に理解しておくことが必要です。

DNA、ヌクレオチド、遺伝子、ゲノム、染色体、とは?

  • DNAとは、デオキシリボ核酸(Deoxyribo Nucleic Acid)の略で、ヌクレオチドが多数鎖状につながって、二重らせん構造をした巨大生体高分子のことです。
  • ヌクレオチドとは、塩基、糖、リン脂質、からなる分子で、A(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)、C(シトシン)の4つの種類があります。
  • 遺伝子とは、DNAの「意味のある塩基配列情報」のことです。
  • 遺伝子は、親から子供に伝わる形質を発現させる本体をいいます。親の形質、例えば、瞳が黒い、皮膚が黄色、背が高い、アレルギー体質がある、等は、DNAの塩基配列の中に「意味のある遺伝子配列」として、組み込まれています。これを遺伝子(gene)といいます。
  • DNAは約30億個の遺伝子配列が存在し、長さにすると2メートルくらいになるといわれています。DNAの中で、意味のある遺伝子は約2万個存在します。
  • ゲノムとは、1つの生物を形成する「遺伝子」のセットをいいます。「ゲノム」=遺伝子「gene」の総体「some」=genome「全遺伝情報」となります。
  • 染色体(chromosomes)とは、ヒト遺伝子情報が入っている二重らせん構造のDNAが、ヒストン蛋白に巻き付いてコンパクトに凝縮されて出来たものです。染色体のある特定の配列が何の遺伝子であるのかはすでに解読されています。
  • ヒトの染色体は46本あり23対になっていて、長い順に1~22番まで番号が付けられて常染色体といい、残りの23番目の1対は性染色体です。
  • ヒトの染色体の46本は、半分の23本は母親由来で、もう半分の23本は父親由来です。対になって46本あるということを、2n=46と表現します。
  • 人体は約37兆個の細胞からできているといわれています。体細胞の染色体はヒトの細胞の核のなかに23対即ち46本はいっています。
  • 生殖細胞の卵子と精子の中には減数分裂をして、染色体数は23本になります。

染色体異常、遺伝子異常とは?

染色体の数や形態の変化で起こる異常を染色体異常症といい、染色体の中の遺伝子の異常で起こる病気を遺伝子異常症といいます。染色体異常、遺伝子異常があると、体や脳の成長や発達が遅れたり、身体的にも顔にも特徴がでたり、いろいろな組織の形や機能が通常とは異なるなど、さまざまな症状がでる可能性があります。

染色体異常の状態

<染色体の数や形態に異常が生じる原因>

  • 染色体異常の多くは卵子の染色体異数性によります。卵子の機能低下が原因と言われています。
  • 46本の染色体をもつ体細胞が減数分裂をして23本の生殖細胞2つに分離する時、誤って不分離が生じ、1本多い24本の染色体と、1本少ない22本の染色体数の生殖細胞になることがあります。
  • わかりやすくダウン症を例にあげると、46本の染色体をもつ卵母細胞が減数分裂して、23本の染色体をもつ卵子細胞2つになるときに、不分離が生じ24本の染色体と22本の染色体の卵子ができることがあります。
  • 染色体が1本多い24本の染色体の卵子と、正常な23本染色体の精子が受精した場合、受精卵の染色体数は47本になります。この現象が21番目の染色体で生じると21番目の染色体数が3本の21トリソミー、即ちダウン症になります。
  • トリソミーは女性の卵子由来の方が、男性の精子由来よりも多いため、染色体異常は女性の年齢に関与していることが報告されています。

<染色体異常症>

常染色体のトリソミーは、13番目、18番目、21番目の3通りで起こることが多く、性染色体の23番では、モノソミーとトリソミーが生じます。それ以外のトリソミーやモノソミーは途中で流産して生まれてくることはないといわれています。

<転座>

  • 転座とは、染色体が切断されて再結合する時に、間違った染色体に接合することがあり、これを転座といいます。
  • 転座の結果、遺伝物質が喪失することがなければ、生物学的に異常を生じる事はありません。
  • 生殖細胞に転座があるときは、不妊の一因となることがあり、転座染色体保有者は障害をもった子供を持つリスクは通常よりも高くなる傾向にあります。

染色体異常症(異数性)の例

疾患名異常型症状、合併症重度
ダウン症候群21トリソミー
(転座型、モザイク型もある)
・先天性心疾患(心室中隔欠損、心内膜床欠損)
・特異顔貌(両眼隔離、眼裂射上)
中~重度
エドワーズ症候群18トリソミー・耳介低位、・消化管の奇形重度
パトウ症候群13トリソミー・体格小さい、口唇口蓋裂重度
ターナー症候群45XO・原発性無月経
・低身長
軽~重
クラインフェルター症候群47XXY・高身長
・女性化乳房
軽度
トリプルX症候群47XXX・高身長、曲がった小指軽度
ヤコブ症候群47XYY・平均身長、発話の遅延軽度

遺伝子異常症(微小欠損症)

  • 染色体異常の様に染色体の数や形態に異常があるのではなく、染色体の中にある遺伝子に微小欠損などの異常が存在するのが、遺伝子異常症です。
  • NIPTなどの非確定検査では判明せず、確定検査の羊水検査や絨毛検査で発見されることが多いです。

遺伝子異常症(微小欠失症)の例

疾患名異常型症状重度
ねこ啼き症候群(5p) 5番の短腕欠損・幼少期に仔猫の鳴き声
・精神発達遅滞、小頭症
様々
ディジョージ症候群(22q11.2) 22番染色体の一部欠損・胸腺低形成、免疫低下
・先天性心疾患
重度
1p36欠失症候群1p36欠失症・精神運動発達遅滞重度
ウルフ・ヒルシュホーン症候群(4p16.3) 4番染色体の一部欠損・難治性てんかん
・特徴的顔貌
重度
プラダー・ウィリー症候群(15q11.2-q13) 15番染色体の一部欠損・肥満、低身長
・筋緊張低下
重度

染色体異常が起こる確率

・ダウン症の子が生まれる頻度
染色体異常は年齢と共にリスクは高くなります。ダウン症候群の21トリソミーは女性の卵細胞由来が多いため、女性の年齢に関係しています。20歳では1667人に1人、30歳では952人に1人、35歳では385人に1人、40歳では106人に1人と年齢と共に頻度は高くなっています。海外のアメリカ、ヨーロッパ、と日本での発症率に大きな違いはありません。

  • 何らかの染色体異常をもつ子が生まれる頻度
    20歳では526人に1人、30歳では384人に1人、40歳では66人に1人と頻度が高くなる傾向があります。

女性の年齢と子どもの染色体異常の頻度

[注] 厚生労働省「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」2013年

出生前診断の検査方法

出生する前に胎児の情報を予測する出生前検査には、確率で胎児の健康状態を予測する非確定的検査と、胎児の染色体検査を行う確定的検査があります。

非確定的検査

非確定検査には、超音波検査と母体の血液検査があります。

➀<経腹超音波検査>

  • 一般的な妊婦検診で、胎児全体の検査、胎児の計測、NT検査(後頚部のむくみ)の検査を継続的におこないます。非侵襲的で情報量の多い検査になります。
  • 「NT検査」とは、妊娠10週~14週ころにみられるNuchal Translucencyと言われる胎児の後頚部の浮腫(むくみ)をチェックする検査です。NTは胎児の生理現象の1つで、血液やリンパ液の流れが後頚部に溜まったものです。
  • NTが大きいことがそのまま異常というわけではありません。NTは2ミリ位がおおく、5ミリを超える場合は、精密検査を考慮することも必要です。

②<血液検査>

  • 血液検査によるスクリーニング検査には、「トリプルマーカーテスト」、「クアトロテスト」、「新型出生前診断」、があります。
    • トリプルマーカーテストは妊婦さんの血液中の3成分(AFP、非抱合型E3、hCG)を、クアトロテストは母体血の4成分(AFP、非抱合型E3、hCG、インヒビンA)を、それぞれ測定し、それに母体年齢、妊娠週数、体重、家族歴、等の有無を加えて、18、21トリソミーや開放性神経管欠損症の確率を推定する母体血清マーカー検査です。妊娠14週~15週頃に行い、2週間前後で結果がわかります。
    • 「新型出生前診断(NIPT検査)」
  • NIPTとはNon-Invasive Prenatal genetic Testing、無侵襲的生前遺伝子検査の略称です。
  • 母体のお腹の中には胎児由来のDNAの断片(cell-free fetal DNA)が存在し、そのDNA断片が臍帯を通して母体血に移動して約10%存在します。
  • 母体血を採決して浮遊する胎児DNAの量を測定することで、トリソミーの予測をすることができます。2週間程度の期間で結果がでます。
  • 21番目の染色体の割合が多く測定された場合は、21トリソミーと予測されます。
  • NIPTで検出可能なのは、13番、18番、21番のトリソミーになります。
  • NIPTは、最近では技術精度が進歩向上し、かなり高い確率で診断の予測ができるようになり、利用する患者さんが増えてきましたが、胎児の染色体の増幅分析ではないため確定診断とはなりません。

確定的検査

確定検査には、絨毛検査と羊水検査があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

  1. <絨毛採取検査>
    妊娠11週~14週頃に実施。経腹的または経腟的に胎盤の絨毛の一部を採取して染色体検査を行い、数日で結果がでます。実施している施設が少ないのと、副作用として、約1%の確率で流産が起こると言われています。
  2. <羊水穿刺検査>
    妊娠15週~16週頃に実施します。羊水約20mlを採取し、羊水中に存在する胎児の細胞で染色体検査をおこないます。結果が出るのに10日くらいかかります。リスクとして、約0.3%に流産が起こるといわれています。

非確定検査と確定検査の組み合わせ

  • 多い例としては、超音波検査をして、ご本人の希望があれば血液検査で新型出生前検査を行います。高い確率で異常が指摘される場合は、確定検査として羊水検査で判定を行うという方法です。妊娠18週くらいまでには全ての現状況の結果が判明します。
  • 高齢出産の方や、前回染色体異常等を経験された方は、非確定検査をせずに、最初から絨毛検査や羊水検査をされる方もおられます。

出生前診断の限界

  • 現在の出生前診断によって、胎児の全ての病気や異常がわかるわけではありませんが、もし検査後に胎児の異常が判明した場合には、その病気に対する治療の準備や出生後の支援やケア、サポートについて考えることができます。
  • 出生前診断は主に染色体異常を見つける検査です。確定検査の絨毛検査や羊水検査では一部で遺伝子異常の検査も含まれますが、胎児の先天性異常の全部がわかるわけではありません。確定診断が陰性であっても未知の遺伝的要因も存在します。

胎児の染色体異常が判明し、出産・中絶を悩む人の思い

  • 新型出生前診断と羊水検査を受けて陽性と認定された場合は、中絶手術も選択肢のひとつに上がることもあります。
  • 障害があったとしても育てていきたいが、高齢出産の場合、今後自分たちが亡くなった後に子どもが生きていけるだろうかなど不安が付きまといます。選択的妊娠中絶、選別などの意見もあり倫理的な問題点が指摘されています。
  • 安易な思考ではなく現実の問題として、重い障害を持った子供が無事に一生涯の人生を幸福に生きていけるのかと気掛かりになります。
  • 生まれてくる子供の健康と将来の希望を第一に願うお母さんたちへの、情報提供、支援、サポート体制の重要性と関心は年々高まってきています。
    [注] 「どうして?僕はこんなに生まれてきて幸せなのに」

染色体異常や遺伝子異常は先天性病気

  • 先天性疾患は、2020年と2021年にパンデミックに流行した新型コロナウィルスcovid-19と違ってワクチンで予防することができません。
  • 若いカップルでも100%の確率で防ぐことができるわけではありません。そのため結婚、出産に対しては、機会があれば先天異常に対する知識と情報、社会的見識をもつことも必要です。

確定診断の検査後の選択

  • 絨毛検査や羊水検査結果によっては、ご夫婦やご家族は精神的なショック感じ、妊娠を継続することへの不安や出生後の症状への心配と向き合うことになるかもしれません。
  • パートナーやご夫婦間で決断できるまで話し合い、検討することがとても重要です。お悩みはお一人で抱えることなく医師や看護師、遺伝カウンセラーへご相談いただき、経験者の声を聞いて、専門的な知識とアドバイスを受けることが大切です。
  • 情報提供、安心できる言葉、周りのサポートが非常に大切です。夫婦間で決断できる状態まで話し合って、最後は納得して答えを出していかなければなりません。

[注] 日本ダウン症協会

母体保護法と染色体異常、胎児異常

  • 母体保護法の第1条には「この法律は、不妊手術及び人工妊娠中絶に関する事項を定めること等により、母性の生命健康を保護することを目的とする」、と記されています。
  • 母体保護法第14条1項1号に、中絶の条件として「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」と、記されています。
  • 母体保護法は「母性の生命健康を保護」、「母体の健康」を目的としており、胎児条項についての記載はありません。
  • 染色体異常の可能性があることと、胎児の中絶手術とは、法律上の関連はありません。
  • 母体保護法による中絶は、妊娠21週6日までで、妊娠22週をこえることはできません。

[注] 母体保護法と中絶の条件 をご参照
[注] 同意書について

たて山レディスクリニックの中絶費用

  • 夫婦間でよく話し合い検討を行った結果、中絶を選択する場合は、早めにクリニックを受診することがすすめられます。母体保護法指定医を標榜している病院を受診することをおすすめします。
  • 当院の中絶手術の費用は妊娠週数等により異なります。以下をご参照ください。

[注] 人工妊娠中絶手術の費用
[注] クレジットカードによる分割払い
[注] 中絶手術の方法について【妊娠週数別】

染色体異常はパートナーとの話し合いと遺伝カウンセリングへの相談が大切

  • 新型出生前診断を受けることを希望される場合、施設基準を満たし専門知識を有した遺伝カウンセリングが受けられる認定医療機関あるいは連携施設で検査を受けることをおすすめします。
  • 一般的に多くの妊婦さんがこの検査を受ける国もあり、国や地域によって様々です。特にアメリカでは新型出生前診断は特に拒否することがなければ、妊婦さんが普通に受ける検査です。海外と比較すると日本国内では現在のところ、新型出生前診断は一般的ではありません。
  • 確定診断で陽性の場合、事前にカウンセリングに登録・連絡しいろいろな意見や考え方を学ぶことが大切です。

[注] 一般社団法人 日本遺伝カウンセリング学会ガイドライン
[注] 日本ダウン症学会

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